私は柔道部員としては新米でも三年生なのです。
呑気な一年生とは違うのです。いくつかの餅の固ま
りといくつぶかの小豆は喉を掠ったかもしれないが、
喉を通過したのはゼンザイらしきもので、本物のゼ
ンザイではなかった。「柔能く剛を制す」の理を学ぶ
のはまず自然流に食いっ気から。人間がこの世に
誕生した時、ひとりは“柔”で、もうひとりは“剛”だっ
たのです。人類最初のケンカはきっと食い物の取り
合いから始ったに違いありません。黒帯組の猛者た
ちが「柔能く剛を制す」手本を私に示してくれたわけ
ではないでしょうが、私はきっちり、“剛”を演じてし
まったのです。“柔”は自分なりの金儲けの方法を
確実に身につけていく者、“剛”は着実な金儲けより
いつまでたっても一攫千金を夢見ている者、“柔”と
“剛”は表裏一体、武蔵と小次郎、ジキルとハイド、
常に“柔”が勝つとは限りません。大事なのは、ひと
りの人間の中で“柔”と“剛”がほどよく調和している
ことでしょう。
 『柔侠伝』の主人公は人間本来のリアルな生活臭
とさまざまな煩悩を持ったマンガ史上初めての“柔”
のヒーローなのです。どうぞいつまでも愛してやって
ください。ありがとうございました。

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